「NHK週刊こどもニュース」放送本番までの準備期間3ヶ月は、まさに闘いの時間だった。

池上彰にとっても、我々演出チームにとっても、ベテラン記者二名にとっても。
「大人向けのニュースをこどもにわからせる」
「こどもにニュースに興味をもたせる」
この二つの課題は未だかつてNHKの誰もが経験したことのない、まったく新しい難問へのチャレンジだった。

池上彰は徹底的に出演者のこどもたちとのヒアリングを重ねた。こどもたちと話してみると、あれもわからん、これもわからん、何もかもがわからんのオンパレードだった。どこから手を付けたらいいのかさえ検討もつかない暗中模索の日々が続いた。
そんな時、池上彰が口を開いた。
「こんなにも世の中についてわからんことが多いのなら、いっそのこと『今週のわからん』というコーナーを番組の中に作ってしまってはどうでしょう?」

プロデューサーの中村哲志は、この43歳の池上彰のアイデアを即採用した。毎週の放送の中で5分間の時間を割いて、ワンポイントに絞ったニュースのキーワードを基礎の基礎から解説する。そのためには模型やアニメーションを駆使し、一つの用語を根本原理から完全に理解できるまで説明する。
「○○って何?」といったサブタイトルが付くこの5分間のコーナーは、後々週刊こどもニュースの中でも人気の目玉コーナーとなるのだが、この時に池上彰は重要なポイントに目覚めていたのである。

よくニュースで耳にする、言葉だけは知っている用語。これらについて私たちは解ったような解らないような気持ちのまま、なんとなく理解しているような錯覚におちいっている。それはとても危険なことだ。専門家が専門家に伝えるための用語がニュースにあふれている。
それを何度も聞かされているうちに、一般の視聴者は耳に馴染んでしまい、本当は理解していないのに理解した気になり納得してしまっているのだ。
このままでは大衆は思考停止し愚民化してしまう。なんとかしなくてはいけない。

これはこども相手だけの問題ではなかった。一般の大人にとっても重要な問題なのだ。池上は立ち上がった。
(つづく)

>>(第9回)池上彰の口癖

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