(第21回)演出の面白さにめざめる

それは家族で人形劇を演じてニュースを解説するという全く新しい演出スタイルへのチャレンジだった。

お母さん役の柴田理恵も3人のこどもたちも、一年以上を経て今や毎週の番組出演に十分慣れてきている。これまではお父さん役の池上彰が、何も知らないこどもたちに説明してわからせるという手法を、週刊こどもニュースの基本的なスタイルとして確立してきたわけだが、今回はまるで違う。

今回はあらかじめ扱う「官官接待」について本番までに、お母さんとこどもたちに説明してわかってもらい、よく理解した上でその理解を深めるために、今度は実際に自分たちだけで演じてみる。いわば「官官接待」という用語の意味を理解するだけではなく、その概念を人形劇の役柄になりきってシミュレーションしてみることで、それぞれの立場の人間の実感、感情まで理解してもらおうという試みだ。

幸いなことに「官官接待」の概念そのものは比較的単純で、こどもたちにとっても理解するのにさほど苦労はなかった。地方官僚など下の立場の官僚が、決定権をもつ上位の中央官僚に対して、高級な料亭などで接待することで便宜を得る。その時に高級な料理を飲み食いするお金として、一般市民の貴重な税金が使われている。これは良くないだろう。それだけの話だ。こどもたちにさっそく役が振り分けられた。

善良な一般市民として真夏、地方の官僚の役を啓太が演じる。中央官僚の役は柴田理恵だ。場面は東京のとある高級しゃぶしゃぶ店という設定で、そこで二人の官僚が密談しながら多いに飲み食いを楽しむ。官僚たちはお腹いっぱいで大満足。自分たちの税金を使われた市民たちは激怒する。という簡単なストーリーである。お父さんは演じない。劇が終わった後で補足説明をする役割だからだ。

それぞれの人形はスタジオノーバの植松淳が面白おかしく作り、杉江の書いた脚本は柴田のアドバイスでぐっとユーモラスになった。こどもたちはいつもと違う演ずる喜びに大はしゃぎであった。ストーリーが単純な分、遊びの要素をふんだんに盛り込む余裕が出てきた。リハーサル室にはまるで学芸会の準備をしているかのように、笑い声が響き渡った。

家族のあまりに楽しそうな姿に、池上彰も演出に参加しはじめた。人形劇の舞台をしゃぶしゃぶ屋に設定したのは、懐石料理だとセットが細かすぎて映像としてわかりにくいからだが、池上は面白がって「せっかくだから当時はやっていたノーパンしゃぶしゃぶにしよう」とまで言い出した。「店内の壁にこう書いて貼っておくといい。パンはありません、と」。

ダジャレ好きの池上の悪のりは止まらなかった。「そんなダジャレこどもたちにわかりませんよ」というスタッフの反対を押し切って、池上はその張り紙を発注した。ついには自分も人形劇に参加したいと言い出した。ストーリーに影響を与えないほんのちょい役だから、といって急遽スタジオノーバに頼んで料理屋の仲居さんの指人形を製作してもらった。「どんな役柄なんですか?」と聞いても池上はニヤリと笑ってこういうだけだった。「大丈夫、すぎぴょんの演出には影響しないから」
(つづく)

>>(第22回)さらに深い解説のための演出

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