まさか日曜の夕方に池上さんに泣かされるなどとは思ってもみませんでした。
しかしながら不意を突くその号泣は、5月27日の陽が陰るころ日本の至る所で見られた光景ではないかと想像します。
 
 今回の『日曜夕方の池上ワールド』は伊勢志摩サミットとオバマ大統領の広島訪問を受けての生放送です。冒頭の池上さんの号泣もさることながら、臨場感あふれる取材が印象的でした。
 
 番組では原爆ドーム付近の「E=mc2」というアインシュタインが発見した原子力エネルギー公式を抱えた少女の碑(広島市立高女 原爆慰霊碑)を紹介、当時はGHQ占領下で原爆の文字が使用できなかったと解説。慰霊碑には「原子力の世界最初の犠牲として人類文化発展の尊い人柱となったのです」と記載されています。広島の原爆の犠牲者は約14万人と言われています。

 当日のオバマ大統領は、岩国基地へ移動後広島入りというハードスケジュールでしたが、1時間程度の広島滞在で日本人にとってこれだけの慰めとなるのですから、大統領任期中、弱腰やレームダック等と評されても、オバマ大統領が理想主義を貫き通したことの意義を感じずにはいられませんでした。
 また、4月11日のケリー国務長官の広島訪問を踏まえると、日本政府の尽力も窺え、オバマ大統領が和紙で作った折り鶴を原爆資料館に残したというエピソードも心に響くものがありました。

 さて、今回のオバマ大統領の演説全文を皆さまはご覧になられたでしょうか。
 演説は「死が空から舞い降り」という主語のない文言から始まります。しかし、その主語がアメリカであることは歴史上抗いようのない事実です。
 また、演説内では科学と宗教が取り上げられていました。私は思いました。前述の少女の碑に刻まれた「E=mc2」の公式を発見したアインシュタインは、当時の最先端の科学技術が、人間をその閃光により人柱とするなど想像しただろうか、また、神はその正しさを主張するために人間が宗教を争いの道具にするなど望んだであろうか、と。
 本来、宗教も科学も幸せに導く手段であるはずですが、人間は何かのきっかけでその矛盾に気付かぬまま間違いを犯しがちです。

 大統領が去った後、池上さん達は献花がなされた原爆死没者慰霊碑の元へ向かいます。
その碑には「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれていますが、当初、主語は誰になるのか議論になりました。広島市は「戦争を起こした全ての人間、世界人類」との見解としています。ちなみにその碑文の英訳にはweという主語が使われています。

 今回のオバマ大統領の演説冒頭には主語がありませんでしたが、この件について殊更に非難する被爆者が見られないのは、原爆投下から70年を経て、この広島という地が全ての矛盾を包括し、そして乗り越えた場所だからなのではないか、と思いました。 
 演説は「核保有国は恐怖の論理から逃れるべき」「広島と長崎を道義的な目覚めの地とする」と結びます。確かに広島や長崎で被爆の実相に触れて心揺さぶられ、『二度とこの地上で核爆弾を使ってはならない』と人類に思いを致すようになった方は多いのではないでしょうか。

 この歴史的なオバマ大統領の訪問を契機に沢山の人々が広島を訪れ、被爆の実相に触れ、人類全体が『戦争をしてはいけない』と目覚める場所となるよう心から願います。