「別にいいんじゃないですか?だって、今年起きた大きなニュースなんですからこれは。取り上げなきゃいけないでしょう、と」

私は池上ウォッチャーなどと名乗っていますが、こんなに縦横無尽かつ影響力のあるジャーナリストを未だかつて見たことがありません。自身の新聞コラム掲載見送りでここまで世間の耳目を集め、後にその系列放送局で当事者本人がその解説をやってのけるという池上さんの人間力にただただ感服するばかりです。

年明け、朝日新聞で休載中の「新聞ななめ読み」の連載再開の知らせがありました。その経緯、つまり朝日新聞の誤報問題について、池上さんは年末の解説塾で丁寧に解説しています。今回はその誤報、いわゆる吉田証言にまつわる慰安婦報道についておさらいしたいと思います。

平成26年8月5日、朝日新聞は予てより指摘されていた、第2次世界大戦中の日本軍による慰安婦の強制連行について、誤報であることを認める記事を掲載しました。
慰安婦とは軍の兵士の性の相手をする女性たちのことで、当時慰安婦と呼ばれる女性が存在していたことは事実です。しかし、吉田清治という文筆家が日本軍とともに朝鮮半島で慰安婦狩りをしたと告白。これを朝日新聞はスクープとして1980年の川崎・横浜版を皮切りに合計16回紙上で取り上げました。
その間、専門家による現地調査が行われ、被害者側である現地の人たちがこれを否定、産経新聞がそれを報じるも、朝日新聞はこれを認めず32年間放置してきたのです。

日本政府はこの件につき、事実認識は曖昧なまま歴史的出来事として村山談話・河野談話を発表し、日韓関係の改善に着手していましたが、近年の日韓関係の急激な悪化につき、朝日新聞はこれが誤報であったことを認めざるを得なくなったのです。
日韓関係の悪化の象徴的な出来事では、慰安婦像が韓国の日本大使館前やアメリカのとある州に設置されたこと、李明博前大統領が竹島に上陸したり、朴槿恵大統領による安倍総理大臣への冷ややかな対応ぶりは記憶に新しいところです。

なお、この32年の間に国連ではクマラスワミ報告という、女性に対する暴力に関する報告書が作成され、従軍慰安婦について性奴隷なる表現がなされています。また、近年の韓国による世界への従軍慰安婦アピールはセンセーショナルなものとなっているのですが、日本軍による強制連行が誤報であったと翻されたことにより、この認識がこれからどうなっていくのか見守りたいところです。

大学入試で出題される一番の題材として必ず挙がる朝日新聞の『天声人語』、私たちは新聞を信頼し、その情報を確かなものとして受け容れてきました。上記に記載した吉田証言による波及は当事国である日本・韓国のみならず世界に広がっています。きっかけは吉田清治による虚言ではありますが、朝日新聞という後ろ盾がそれを信頼に値するものにしてしまったという側面は否めません。

朝日新聞が今回の誤報への対応で池上さんの指摘に則し、誤報について詫びたことは価値あることだったと思いますが、信頼回復のためには、これからの報道について誤報などがあった場合は放置せず傲慢にならず謙虚になること、それと同時に慰安婦問題については、世界に対し、その信頼を与えてしまった認識を剥がしていく努力をしていくこと、この二つが大事ではないかと思いを馳せた年末の解説塾だったのでありました。