「記事は足で書け」と言われる。

新聞でもテレビでも、報道機関に入社してニュースを担当する記者となった新人に向かって、先輩記者が必ず叩きこむ言葉だ。これは今も昔も変わっていない、ニュース報道の基本中の基本である。

足で書けと言っても手の代わりに足にペンを持って書けという意味ではない。毎日足しげく現場に通い、当事者本人に会って直接話を聞き、自分の目と耳で確かめた情報だけを記事にしろという意味だ。「営業は足で稼げ」などと同じ比喩であり、机に座って本や新聞を読んでいるようでは、ニュースソースの一次情報に当たれないから信頼できる記事などかけるわけがない、という教訓である。

なぜそれが基本として厳しく言われるのか。それは人づてに聞いた情報は、いくら相手が信頼できる人物だからといって、そのまま鵜呑みにすることはできないからだ。それは既に二次情報であり、あくまでも本人がそう言ったのか言わなかったのか、本当のところは会って確かめなければ記事に出来る情報は得られない。それを怠るようでは2014年に起きた新聞の誤報騒ぎではないが、自信を持って信頼できる記事にはなり得ないため、いわゆる誤報を出す原因になるからである。

新人記者も5〜6年この「サツ回り」と呼ばれるような地道な取材活動を続けると、どうにか一人前の記事が書けるレベルの基本を身につけることが多い。この基本を身につけたら、あとはいかにして早く、正確で、重要な情報を引き出せるようになるか、各自の努力しだいというところだろう。

池上彰も松江放送局、広島の呉通信部などあえて地方の記者を務めた後、社会部に異動し警視庁・気象庁・文部省・宮内庁などを担当した。「週刊こどもニュース」のお父さん役兼キャスターを勤める前に、20年の記者としてのキャリアを積んで取材力を身につけていたのだ。記者は普通、それからもデスクや部長などの管理職をしながら、独自の人脈や取材テクニックを駆使して成長していく。しかし池上の場合は違った。「週刊こどもニュース」を始めてからはアンカーマンという立場上、得意の足を使った取材活動をする時間が制限されるようになった。

もちろん「週刊こどもニュース」を11年間やりながらも、要所要所で家族全員が震災被災地から生中継したり、池上が長男役と二人でヒューストンへ出かけてNASAで宇宙飛行士と交信したり、といった現地取材の機会は池上にもあった。だが番組のコンセプトは、あくまでこどもによる、こども目線での取材が中心であり、できうる限りこどもたちをディレクターの保護の元で現場に行かせた。池上の仕事場はスタジオとプロジェクトルームという室内に限られてしまった。

にもかかわらず現在の池上彰が「池上無双」と称されるほど、鋭く切れ味の良いインタビューを、大物政治家を相手に投げかけ、本音を引き出すほどの恐れられる取材術を身につけているのか。その秘密は実は「週刊こどもニュース」の期間中に、密かに研ぎ澄まされていたのである。
(つづく)

>>(第27回)こども目線のインタビュー術

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