なんとしてもニュースにこどもたちにも興味を持ってもらいたい。

そのためには手段を選ばなかった。池上彰は演出については未経験ながらも知恵を絞った。時には杉江たち演出チームと一緒になって、面白い見せ方を工夫することもしばしば見られるようになった。単純な模型だけでは池上自身が満足できないようになり、より斬新な模型のアイデアを生み出すために、本業の解説以上の労力をついやすようになった。池上彰は「週刊こどもニュース」時代、打合せを終えて自宅で風呂に入っている時に、ふと模型のイメージがわくことがあると語っている。

模型だけではなかった。番組自体がニュースショーのスタイルをとらず、あえて5人の疑似家族を設定し、池上お父さんが家族団らんの中で妻やこどもと語り合うかのように時事問題について触れる。そんな演出スタイルを取っていた。これは番組立ち上げ時の統括プロデューサー中村哲志の強いこだわりでもあり、週刊こどもニュースプロジェクトの命でもあった。互いにお父さん、お母さんと呼び合い、我が家のこどもたちはどう感じたかな、というようなセリフで会話する。ニュースを日常生活にとけ込ませるために書かせないアイデアであった。

だがこの演出スタイルにも問題点があることに、池上彰はやがて気づき始める。ジェンダーの問題だ。番組の中の疑似家族では、常にお父さんが世の中のことを解説し、妻やこどもは一方的に聞き手にまわる。はたしてそのようなステレオタイプな家族像を描き続けていいものだろうか。あたかも妻は夫よりも無知であるかのような、男尊女卑の価値観を与える危険性はないのだろうか。池上は言った。
「たまには私が一方的に解説するのではなく、お母さんが解説役をつとめる回があってもいいのではないですか? 世の中にはお父さんよりニュースに詳しいお母さんだってたくさんいるのです」
これは正論であり、誰も反対する者はいなかった。実際にお母さん役の柴田理恵に解説役を割り振る試みもなされた。しかしその試みはたった一回で失敗に終わった。

やはり無理があったのである。ニュース解説に関しては圧倒的に池上彰の方が知識も経験も豊富であり、女優である柴田理恵とは比較にならなかった。柴田がなんとか努力して解説役を演じても、そこからは不自然さが際立つばかりであり、とてもじゃないけど時事問題に詳しいお母さんという演出は不可能だった。柴田自身がこの問題に頭を悩ませていたことは、三年後に母親役を卒業する時に自ら語っている。
「こんな私がニュース番組でお母さん役をやってていいのだろうか。役を断るべきだったのではないか。自分の立場はどこにあるのだろう。最初のうちはずっとそう思っていたんです」

そんな柴田が自分の居場所を見つける日がやってくる。ある週の週刊こどもニュースで、今回は「官官接待」について解説しようということになった。池上はさっそく模型を考えたがピンとくる模型のイメージが浮かばない。中村プロデューサーは言った。
「人形劇という手法もありますよ」
模型デザイナーの植松淳が所属するスタジオノーバは番組用の小道具を製作する会社だが、系列に人形劇団プークという人形を操作して人形劇を自主公演する劇団を持っていた。そこにはNHKの長年の人形劇番組を支えてきた、ベテランの人形師のノウハウがつまっている。そうか、それは面白い、と池上はポンと膝を打った。脚本は杉江義浩が担当することになった。模型ではなく人形劇、それも声優ではなく池上一家の家族が演技する。「官官接待」を物語化して演技してみることによって、こどもたちも自ら理解を深めていく。

これも家族みんなでニュースを考えていく、一つの演出テクニックになりうる。杉江はさっそく「官官接待」をテーマにした人形劇の脚本を書き始めた。
(つづく)

>>(第20回)ニュース人形劇「官官接待」

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