池上彰が週刊こどもニュースの中でも特に力を入れて取り組んだのが「今週のわからん」というコーナーであった。

週刊こどもニュースは大きく分けて三つのコーナーから構成されている。まずその週の主立ったニュースを5本まとめて紹介する「ニュースサマリー」、そしてニュースを理解する上で必要な、特に重要なキーワードをお父さんが模型を使ってこどもたちに解説する「今週のわからん」さらにこどもニュース班の独自の企画による「企画コーナー」である。

毎週日曜日朝8時から生放送される週刊こどもニュースは、水曜日に総合ディレクターと池上彰が打ち合わせて「今週のわからん」のテーマを決め、模型のアイデアを考えて木曜日に発注。模型チームのうえまつ淳をはじめとするスタジオノーバのスタッフはそれから48時間以内に模型を完成させて、放送前夜、土曜日の夕方にこどもたちを交えて行われる総合打ち合わせにそなえる。この総合打ち合わせこそが勝負の時だ。

なにも知らずに現れるこどもたちと、準備万端で「わからせてやろう」と策を練ってきたお父さんサイドとのガチンコの打ち合わせなので、毎回ものすごい緊張につつまれる。
あの初対面「お見合いの日」の悪夢がスタッフの脳裏をよぎる。「総理大臣って何する人?」というこどもたちの素朴な質問に、大人も即答できずに会議が止まってしまった苦い経験は、池上をはじめスタッフにしみついていた。

総合打ち合わせでは、できたばかりの模型を使ってお父さんが説明する。こどもたちに一言でもわからない、と言われたら何度でも説明の仕方を変える。原稿も何度でも書き換える。こどもたちのOKがでるまで、大人たちは悪戦苦闘しながら、この作業を続けるのだ。

準備期間の3ヶ月はあっというまに過ぎ去り、いよいよ1994年4月10日、週刊こどもニュースの第一回生放送本番の朝がきた。
第一回目の「今週のわからん」のテーマは「高速増殖炉もんじゅ」である。
初回からあえて難しいテーマを選んだのは、ニュースに出てくるどんな難しい用語からも逃げない、というプロジェクトチームの固い決意の表れでもあった。はたして5分間でどこまでこどもたちにわからせることができるのか。

杉江はスタジオの副調整室でディレクター席に座ったまま、固唾をのんで池上彰の解説を見守っていた。
「そもそも原子力発電というのは、、、」「そもそも核燃料というのは、、、」「そもそもウランというのは、、、」
5分間のあいだに10回位以上「そもそも」という言葉を池上は使った。僕は池上彰の口癖は「そもそも」なのかもしれない、とこのとき思った。

この日以来なんと八年間の長きにわたって池上彰はメインキャスターとして、杉江義浩は総合ディレクターとして、こどもニュースの成長のために苦楽を共にしていくことになろうとは、ゆめゆめ思ってもいなかった。生放送を繰り返し、毎週の試行錯誤を積み重ねていくうちに番組のノウハウは築き上げられていく。池上彰43歳、杉江義浩34歳、まだまだ新たなチャレンジは始まったばかりであった。
(つづく)

>>(第10回)なんとしてもわからせる

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