会議室ではまず上座に小中学生のこども3人、啓太、真夏、茉侑の3人の席が用意され、大きすぎる椅子に深々と腰を沈めた。

楕円形のテーブルの反対側には池上彰と、彼の大先輩にあたるNHK報道局のOBが二人、にらみを利かせるように座った。それを取り囲むようにして杉江たち演出チームは席を取った。
ベテラン記者二人がにらみを利かせているように見えたのは、僕の錯覚かもしれない。しかし歴戦のつわものが漂わせる独特の雰囲気は、ともすれば威圧的とも感じられるものだった。それに加えて、意地でもこどもにわからせるニュース原稿を持ってきた、という気迫が凄みを増していたのだろう。

鈴木、岡本(※ともにすでに故人)の両ベテラン記者は、それでもこどもたちににこやかに話しかけ、ゆっくりと明瞭な口調で、あたかも日本むかし話でも読み聞かせるかのような声で原稿を読み始めた。
「このまえのせんきょで、そうりだいじんにえらばれた、ほそかわもりひろしゅしょうは、こっかいのとうべんのなかで、つぎのようにいいました」

そこまで読んだ段階で、いったん止めて、こどもたちの顔色をうかがう。
こどもたちはキョトンとした表情で、僕らの方に目線を送る。
「あ、解らないところがあったら、いつでも質問していいんだよ」
と杉江はこどもたちに言った。

しばらく沈黙があって、それから小さな声で真夏が言った。
「総理大臣って何する人?」
啓太が、付け加える。
「知らないの?日本で一番偉い人だよ、僕、細川さんって知ってますよ」
「私も細川さん、名前だけは聞いたことがある」と茉侑。
真夏が声を大きくしてハッキリと言った。
「だから、総理大臣の仕事ってなにかって、私は聞いてるのよ!」
「そんなの知るかよ!」

ざわめき出したこどもたちを見て、ベテラン記者二人は目を点にして、ただただ顔を見合わせるばかりであった。オーディションで3人の子役を選んだ杉江たち演出チームは、固唾をのんで見守っていた。プロジェクトは崩壊か?オーディションでミスったか?話が先にすすまない。会議も何もあったものじゃない。
そこで池上彰が口を開いた。
(つづく)

>>(第5回)さすがの池上彰も困った

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