1993年の冬、池上彰は43歳にして2度めのお見合いをした。

相手はお父さんのいない擬似家族、母親役の柴田理恵に加えてこども役の武藤啓太、村山真夏、石川茉侑の小中学生だ。週刊こどもニュースプロジェクトで5人のファミリーを誕生させようという企てだ。
その日、NHK放送センター7階にあるプロジェクトルームは極度の緊張感につつまれていた。はじめての顔合わせである。番組は家族という設定にすること、こどもに本当にわかるニュース番組にすること、というコンセプトは秋から演出チームによって練られていた。そのため外部のCGチーム、模型チームも準備に取り掛かっていた。番組制作局に足りないものは肝心のニュースを担当する報道局のメンバーだけだった。

このお見合いはNHKにとって、番組制作局と報道局のお見合いでもあったのだ。プロジェクトルームには番組制作局の部長をはじめ上層部の職員が集結し、狭い部屋は動く隙間もないほどひしめき合っていた。あとは池上彰の登場を待つばかりであった。
そしてその時がやってきた。約束の時間に池上彰はたった一人で現れた。その時池上彰の指先が細かく震えていたのを、僕は今でも忘れない。程なく番組制作局の幹部と池上彰の挨拶が終わると、今度は場所を会議室に移して実務者同士の初めての打ち合わせが始まった。

第一回目の顔合わせは、お父さん役のいない4人の出演者、演出チームから5人、それに対する報道局のニュースチームは池上彰と、それをバックアップする報道局OBのベテラン記者2人。報道局OBのベテラン記者は、この日のために「こどもにも分かりやすくリライトしたニュース原稿」を携えてきた。それをこどもたちに読み聞かせ、どこまで理解できるのか反応を見ようというのが目的だった。そしていよいよベテラン記者による「こども向けのニュース原稿」が読み上げられる。それが理解されなけれあこのプロジェクトは崩壊する。別の意味で緊張感に包まれていた。
そしてこの会議の席上で、とんでもないハプニングが起きるのだが、それを誰が予想していただろうか。
(つづく)

>>(第4回)NHKベテラン記者、倒れる

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